人気ブログランキング | 話題のタグを見る
ビューティホー・ジャパン
 先日、ストラスフィールドのエージェントに家賃を払いに行こうと駅で電車を待っていたら。

『すみませんけど、今何時でしょうか』とほっそりしたオージー老婦人に声をかけられた。腕時計を見て時間を教えてあげると、『次の電車、あと何分くらいで来るかしら?』。シティレールの大きい駅には行き先と時間が一覧表示されたモニターがあるのだけど、ウチの最寄り駅は小さいので、事務所の隣に置いてある文字盤のついたボードが『いかにもアナログです』といった風情で鎮座している。それでもその時間通りに電車が来ることはあまりないのでじっくりは見ないのだけど、『まあ、そろそろ来る頃かな』といった時間だったので『あと2、3分で来ると思いますけど…あのボードはご覧になりました?』と聞いてみた。

すると老婦人、『見たわよ、でも何分待っても来ないもんだから駅員に聞いたんだけど「もうすぐくる」って言うだけなのよ、まったくいい加減なんだから』とこぼし始めた。普通シティレールを利用している人なら『電車が時間通りに来ない』ということを熟知して(あきらめて)いるので、今更そんなまともなこと言う人いるのねえ、と思いながら聞いていたのだけど、やはり普段あまり電車に乗らない人のようで、ちょっと不安そうだった。聞くと、ストラスフィールドまで行ってそこからブルーマウンテンズ・ラインに乗り換えるそうなので、途中まで一緒に行ってあげることにした。

道中、彼女はブルーマウンテンズの中腹あたりに住んでいて、その日は歯医者さんにかかるとかでウチの方まで出てきたらしい、とのことだった。話好きらしく、『山はいいわよ!』と力説していたのだけど、話の流れで私が日本から来た、と言うと『んまあ!私、日本が大好きなの。日本人のお友達もいるし、もう4回も行ったのよ!』と目を輝かせ、東京駅の近くで泊まったホテルが素晴らしかったこと、天草、普賢岳の自然が壮大だったこと、再びとうとうといかに日本が素晴らしく、美しい国か語り始めた。

オーストラリアにいて、こういう機会は本当にたくさんあるのだけど、そのたびにどぎまぎしてしまう。日本を褒められて、私が『ありがとう』というのも何だかおかしいし、大抵こういう人たちが行って、見てくるのはもちろん美しい面だけなのだ。25年日本で生まれ育って、どちらかというとむしろ普段は自分の国のネガティブな面ばかりにため息をつきながら暮らしてきた私などは、『まあ、観光地なら、ねえ』などとひねくれたことを考えてしまい、笑顔も引きつってしまう。

もちろん社交辞令でもあると思う。特に多民族国家であるオーストラリアでは、異文化を賞賛することがインテリジェントな態度だと見なされる傾向が強いと、何かで読んだ。移民の国だから、摩擦を起こさず、みんなが穏やかに暮らしていくための当たり前の方法なのだ。そう考えると、私が暮らしてきた日本も韓国も、まだまだ『外国人』が当たり前ではない国であって、そこから来た私は日本を褒められても『いやいや、あなたのお国だって、こーんな所がなかなかどうして素晴らしいじゃありませんか』と褒め返すだけの余裕がないのだ。相手の出身を聞いて即座に褒められる人、褒め返すことができる人には、きっと同じように自分の国の美しさを知り尽くし、誇りを持っているが故の余裕があるのだろうと思う。この国の人の、こういう飾り気や屈託のない『愛国心』がうらやましくなった。

別れ際、老婦人が『私は日本の人たちの話し方が大好きなの。とってもgraceful(上品)なんですもの』と言っていたのが印象に残っている。私はgracefulな日本人になれるだろうか。
by たまきち | by tamakichy | 2005-05-03 17:29 | 豪州生活
<< とりあえずの近況 脱・引きこもり >>


back next random list